いきなりだが、次の言葉を読んでどんなふうに感じるだろうか?

「人は死ぬ、絶対死ぬ、必ず死ぬ、死は避けられない。」という真理がある。

そして、煩悩に囚われていると苦しみから抜け出せない。

抜け出すためには、次の5つの戒律を守ろう。

1.不殺生 生き物を殺さない
2.不偸盗 盗まない
3.不邪淫 愛の無いセックスをしない
4.不妄語 嘘をつかない
5.不飲酒 酒やタバコ、麻薬、などをやらない

そして次の5つのことを行おう。

1.生き物全てに対して慈しみの心をもつ。
2.積極的に施しを行い、優しい心を持って人と接する。
3.愛の無いセックスをせず、異性を自己のものと見ず、心から結ばれよう。
4.嘘をつかず、いつも正しい言葉を話そう。
5.自己の心を薬物によって乱さず、絶えず安定した優しい心を持って周りとつながろう。

どうだろう?特に反対したくなるようなこともないんじゃないだろうか。

酒やタバコに関しては人によってはいろいろ言いたくもなるだろうが、それ以外の項目は、「まあ、そういう方が良いよね」ということだし、「人は絶対にいずれは死ぬ」というのは真理である。

実はこれ、オウム真理教の教義なのだ。

彼らの教義は様々な宗教からのサンプリングで成り立っているので、この部分は基本的に仏教の考え方の引用である。それでもこれは彼らの教義なのだ。

これを

「オウムも良いこと言ってるよね?」「こういうのを忘れちゃダメだ!」といって、幼稚園や小学校で引用してきて唱和することがあるだろうか?
だいたい、こういう「基本的な倫理観」ということは、いろんな宗教が説いているし、哲学者たちもずっと考え続けてきて、いろんな言葉で世に問うている。だから、わざわざオウムの教義から引用する必要はないのだ。

そして、オウムの場合は、この戒律や徳目の「殺さない」ということに関しては

「完全に煩悩がなく、完全に利他の心のとき」や「悪行を積み続ける魂を救済するとき」は殺人が許されるという教義になっており、それによってあの大事件を起こすことに繋がっていく。

さて、話題の教育勅語だ。

「良いこと言ってるんだよね」という12の徳目をおさらいしてみる。

1親に孝養をつくしましょう
2兄弟・姉妹は仲良くしましょう
3夫婦はいつも仲むつまじくしましょう
4友だちはお互いに信じあって付き合いましょう
5自分の言動をつつしみましょう
6広く全ての人に愛の手をさしのべましょう
7勉学に励み職業を身につけましょう
8知識を養い才能を伸ばしましょう
9人格の向上につとめましょう
10広く世の人々や社会のためになる仕事に励みましょう
11法律や規則を守り社会の秩序に従いましょう

ここまで、別に変なことはないし、確かに良いこと言ってるかもしれない。
しかしそれは別に教育勅語でなくても、誰でもが言うような当たり前のことでもある。だから、別のところから引っ張ってきてもいいわけで、「わざわざ」教育勅語を引っぱってくるのは、その人にとって「教育勅語じゃなきゃだめだから」なのだ。それは「殺すな、盗むな」というのは様々な宗教や哲学者が言っているけれど、もしオウムの教典から持ってくるのならば、その人にとって「オウム真理教じゃなきゃだめ」だから、というのと同じだ。

そして、最後の徳目。これは原文も書いておこう。

12 一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ(国に危機が迫ったなら国のため力を尽くし、それにより永遠の皇国を支えましょう)

「仲良くしよう」とか「人に優しくしよう」みたいなのと違って、これだけが、一般的に「誰でもいう倫理や言葉」ではない。
すでに「広く世の人々や社会のために」働こう、と言っているのに関わらず、わざわざ最後に皇国を支えよう、ということを言っている。「国を支えるのは当然のこと」という人もいるだろうけど、その結果どうなったかはご存知の通り。

あの戦争についての解釈は立場によっていろいろあるかもしれないけれど、少なくともある一時期、この国がカルトのようになってしまったことを否定する人はどの立場の人にもいないだろう。

どこからでも、誰からでも引用できるものを「敢えてそこから」引用する場合は、必ず理由がある。それは何なのか、考えてみた方が良い。