子どものこころの健康を考えるシンポジウム「子どもの貧困をめぐって」に参加してきた。登壇された方々は、阿部彩(首都大学東京都市教養学部教授/子ども・若者貧困研究センター長)、鴻巣麻里香(KAKECOMI発起人・代表)、土井高徳(土井ホーム代表)、大高一則(大高クリニック院長)。

それぞれの先生方が充実した内容の講演をなさっていたので、とてもここで一回ではすべてを紹介することはできそうにない。なので、まずは全体のほんの一部分だけれど、僕が主観的に感じ、考えたことを、このシンポジウムでは2番目に登壇された鴻巣麻里香さんがお話ししていた中でのキーワードの一部である「枠と居場所の違い」と「見えなくなってくる」ということを中心に書いてみたい。

KAKECOMIという、「まかないこども食堂」(「まかない」という言葉や、KAKECOMIという言葉にも、とても重要な意味がある)の発起人であり代表である鴻巣さんは、「枠ではなく居場所をつくる」と仰っていた。ここで言う「枠」とは、同質性を求められ、自分の意志で出入りができない、そして、そこに存在するためには自分が何者かであることが要求される場所のことだ。それに対して「居場所」は、そうした拘束がなく、そこにいるために何らかの役割を果たす条件のない場所である。「まかないこども食堂」のKAKECOMIは「居場所」として作られた。

僕はこの「枠ではなく居場所」という考え方は、共感するところが大きくて、すごく腑に落ちた。僕たちがこの世に存在する、できるのは、それぞれが「何者かであること」が必要な条件ではない。つまり、「価値がある」とか、「役に立つ」とか、そういうことは必要ではなく、存在する限り、それだけで意義も価値もあるのだ。その辺りのことを、鴻巣さんはご自身の重大な体験を踏まえてお話ししてくれた(そこは講演等に行って聴いた人の特権としてここには書きません。知りたい人はぜひライブに行きましょう)のだが、貧困によって少なくない子どもたち(大人たちも)「枠」の中にはいられなくなってしまい、「居場所」がなくなってしまっている。

「居場所」がなければ孤立してしまう。ここで言う「孤立」とは「孤独を愛する」とか「一人が好き」とか、そういうことではなく、社会的動物である人間がその「繋がり」を失う、ということだ。つまり、本来社会的動物な人間がその社会性を失えば(ここでいう社会性は「付き合いがうまい」とかではない)、人として生きる最低限度の水準を失う可能性があるということだ。僕はどちらかというと「孤独を愛する」し「一人が好き」な方なのだけれど、自分が様々な人との繋がりの中で生きてきたし、そうでなければ生きられないということは自覚しているし、自分がとても運が良かったと思うし、そのように僕の生存を可能にしてくれている周囲の人々を愛している。孤立しては、なんらかの危機から脱出することも難しくなる。3番目に登壇された土井先生も、「現代社会はそのような繋がりが切断された社会」とお話しされていた。

そして「見えなくなってくる」ということ。鴻巣さんは、KAKECOMIにくる子どもたちの中にも、すべてを持っているようなこども(頭も良くてイケメンで貧しくもなく、みたいな)もいて、そういうこどものエピソードで「昔はいろんな人が周りにいたけど、だんだんいなくなって、見えなくなってきた」という話があった。僕は、個人的にこれはすごく良く分かる。僕が幼少期に育った地域はかなりガラの悪い地域で、中学なんかは評判の不良校だったので、いろんな家庭の同級生たちがいた。それが、成績がまあ良い方だった僕は高校で進学校に行くのだが、そうすると、なんだか似たような家庭環境の人ばかりになった。大学に行くとさらにそうなった。幸い?僕は音楽(ロックやポップス)にのめり込み、音楽の世界に入り浸るようになると、そこはまた多種多様な人の集まりになったのだが。

このように「だんだん見えなくなる」ということがある。この辺は、ネットの議論とか見てても感じることがある。自分と同質の人たちとの世界ばかりに、いつの間にか、じわじわと変わっていて、そのことに気づかない。最後に登壇された大高先生も「貧困を見ないようにしている」と仰っていたが、「見ない」し「見えない」のだろう。

僕は自分の授業ではかならず「学校の方が特殊な環境だからね」というのを言うことにしている。同じような年齢の人が同じ「枠」にいなきゃいけないという方が、本来特殊なのだ、と。そして、「君たちがこれまで出会ってきた大人は限定された大人たちだ」とも言うようにしているのだが、鴻巣さんが「子どもが出会う大人は限られているから、それを良い形で広げるためにもKAKECOMIには大人も来てもらって良い形にしている」というようなことを仰っていたのは、とても同感だった。

他にも、いろいろ書きたいのだけど、今日はとりあえずこの辺で。