このところ取材していただく機会が増えて、それは良いことではあるのですが、そうなったきっかけは、やはりこのコロナ禍で人々に大きな苦しみが生じ、極限の選択をしてしまう人が増えてしまったことだと思うと、複雑、と言うのが本当に正直な気持ちです。

僕が表立ってメンタルに関わることを音楽業界向けに発信するようになったのは2013年からで、最初はいわゆる「発達障害」に関する基礎知識や理解を「音楽関係者に」そして「当事者以外に」広めたいというところから始まりました。それから、書籍を出させてもらえたり、トークイベントに出演させてもらったりしながら、7年が経ちます。その間、僕が一貫して思ってきたことの一つが、先述した「当時者以外に」ということです。どんなことでも、当事者は当事者であるが故に、どんどん詳しくなっていきます。しかし、一方で当事者以外の人は、相変わらず無関心なまま、ということがあります。

そもそも、ほとんどのことは、ほとんどの人にとって、当事者として体験することではありません。あえて言うならば、何かがきっかけで命を失う人が年間数万人いたとして、もちろんそれはとても悲しいことではありますが、そのご家族や友人を合わせても、この国のほとんどの人は当事者ではないのです。

そこで必要となるのは「基礎知識と想像力」だと思うのです。

全く知らないことは、想像することができません。少しでも知っていれば、想像することができます。そして、「想像してみよう」と思うことが、多くの当事者ではない僕たちに大事なことなのだと思います。誰しもが当事者となる可能性があること、世の中にはいろんな人がいて、いろんな価値観があること、自分の価値観は限定的なものであること、などを僕はできるだけ想像していきたいのです。

そして、もう一つ一貫して言ってきたことがあります。それは「たいていのことは世の中のせい」であるということ、そしてそれ故に「何もあなたのせいではない」し、「あなたが大切」であるということです。こう言うと異論反論も当然出てくると思いますが、世の中や環境が変化すれば問題や障害ではなくなるのであれば、それは本人のせいではありません。ただ、現実問題としてすぐに世の中や環境を変えることは難しいことも多いから、折り合いの付け方を考えましょう、というだけで「あなたのせい」ではないのです。誰もが存在することにクリアしなければならない条件などありません。命というよりも、いろんなこと全部ひっくるめて、「あなたがあなたとして存在すること」が大切で「あなたが大切」なのだと思います。

最後にここ最近取材していただいた記事のリンクなどを貼っておきますので、参考にしていただければ幸いです。

音楽制作者連盟『音楽主義』アーティストとスタッフの「こころ」をケアする「メンタルヘルス」対策のすすめ 2020年12月1日

BuzzFeed『なぜ、芸能人やアーティストの自殺が相次いでいるのか?コロナ禍がメンタルに与えた影響 識者に聞く』2020年12月4日

Buzz Feed「一握りのメガヒットの裏で、潰れた才能がたくさんある」不足するアーティストへの心のケア。音楽業界は変われるか?2020年12月5日

『RollingStoneJapan』にて「世界の方が狂っている〜アーティストを通して考える社会とメンタルヘルス〜」を連載中