YAMAHAから出版されている「音楽家の伝記 はじめに読む1冊」というシリーズが創刊されていて、それは「10歳から読めて、大人にも本物の感動を」というテーマで作られているので、とても読みやすい。そのシリーズの「小泉文夫」を読んだ。小泉文夫は「いわゆる民族音楽の研究のパイオニア」でとても面白い人物なのだが、詳細はここでは触れないので興味ある方はぜひ検索して調べてほしい。
その小泉文夫がはじめて留学したのはインドだった。その留学先の音楽院で彼はなんでも積極的に質問したのだが、「南インドの音楽は完成されているのでこれ以上新しいものを作るのは不可能だ」という音楽院の院長に「それでは伝統にしがみついているだけで進歩がない。伝統を継ぎながら新しい音楽を作るのが音楽科の役目ではないのか」と食い下がった。
しかし、彼はある時「即興が基本のインド音楽は立派な” 現代音楽 ”であり、毎日毎日新しい音楽が生まれている。即興が主体だから楽譜も合奏も合唱もオーケスストラもない。まれに合奏があってもそれは本当に例外の扱いで、こうした西洋音楽との違いを理解し、西洋音楽と比較するのではなく、まっさらな頭でインド音楽を受け入れると、それは非常に高度で知的で哲学的で、壮大な芸術であることがわかる」と気づく。
彼は日本を含めた世界各地でそのような発見をしていくのだが、この「なんらかの文化を基準にするのではなく、それぞれの文化を見ていくこと、そして、違う文化が存在するということを知り、理解すること」は、その「文化」を「人」にも置き換えられると思うが、現代においてますます大切なことになってきているように思える。人もひとりひとり全く同じ人はいない。いろんな特性と文化を持った人がいる。
自分が見て聞いて感じているそれは、自分の枠から離れて、ちゃんとその対象そのものを見て聞いて感じているのだろうか?
自分がこだわってしまう視点や、わからない世界があるということを自覚することも必要なのだろう。また、自分が多数派の方にいると少数派のことが見えていなかったり、自分がなんらか権力側あるいは社会的に有利な側にいるとその反対側のことがわからなかったりもする。そうしたことを踏まえておくことはカウンセラーとしても非常に重要なことなのだけれど、この世界を少しでも生きやすくするためにも、大事なことだと思う