昨日2月16日(木)にDAYDREAM 吉祥寺で行いました「表現者のためのメンタルヘルス講座 vol.9 表現とジェンダーと家父長制解体!」で参加者の方に配布した、家父長が出現し完成していくまでの過程をまとめた資料を公開いたします。個人的には「人間を人間としてではなく『資源』『モノ』『生産性』で捉える」というところがポイントで、それが現代社会の様々な問題にも繋がっていると考えます。
1 狩猟採集社会〜園圃社会〜農耕社会への変化の中で生まれた家父長制
狩猟採集社会
男性が狩猟者としての力を発揮するような大掛かりな狩猟はたまに行われるだけで、日々の食糧は女性と子どもが従事する木の実などの採集や小動物の狩猟によって賄われていた。
男女の役割分業は存在しても、両性の関係は平等。この時期は一般的に母系あるいは母処居住社会
園圃社会〜農耕社会 家父長制の出現と完成
農業が発達するにつれて、女性の出産能力は、何よりも部族の「資源」と認識されるようになる。
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生産性を高めるためには多くの労働力を投入しなければならないので、部族に、より多くの女性を獲得したいという要求が高まる。
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他部族から女性を奪うという行為→戦争→戦闘力が優れた男が崇められるという戦士文化の出現。また、力を必要とする耕作農業は男性が主力となりやすく、そのために余剰を男性が支配することを許した。
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狩猟や採集よりも生産的なので余暇が生まれたが、女性は出産・授乳などの仕事を行わなければならず、そのため余暇は男女に平等に配分されなかった。結果として男性の方が余暇に技能向上を図りやすかった。
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人々の最も重要な関心ごとは「収穫高を上げること」になったが、それについて知識や技能を蓄積した「長老」の影響力が強くなった。
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長老男性は生産に関する知識を秘儀にして神秘化させ、女性の「性」の規則とその交換を管理。若い男は女性に接近する特権を得るために、長老に労働を提供。→家父長制の出現
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女性は男性よりも劣った存在であるというシンボル、メタファー、格言、法律、思想により、女性自身が自己の劣性を内面化し、女性を階層化(女奴隷・娼婦・妾・妻)することにより女性を分断し連帯を阻むシステムを構築。そして家父長制が完成する。
*レヴィ=ストロース「女の交換」(『親族の基本構造』クロード・レヴィ=ストロース 馬淵東一・田島節夫監訳)
近親婚の禁忌は「母、姉妹あるいは娘を娶ることを禁止する規則であるよりはむしろ、母、姉妹、あるいは娘を他の人に与えることを強いる規則」
「女は小さい子どものうちから、こうした強制的な結婚に同意することが彼女に課せられた義務だと教え込まれ、それ従うように躾けられる。結婚を構成する交換の全過程は、男と女の間ではなく、男たちの集団の間で成立した。女はただ交換されるモノの一つにすぎず、パートナーの1人として見られることはない」女性の非人間化・モノ化。「女性の贈与」
2 近代資本主義とジェンダー分業システム
18世紀までは、王侯貴族などの特権階級と一部の女性を除き、未婚既婚問わず、西洋社会の女性たちは労働に従事していたが、18世紀に起こった産業革命は、女性の労働力を管理する「ジェンダー分業」システムを作り出す。
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産業革命によって登場した「工場」は、広い空間を必要とし、機械の出す騒音や汚い空気などのため、家族の住居から離れた場所に作られるようになった。そのため、それまでは職住が隣接していたので家事育児と仕事の両立が可能だったが、それが難しくなった。
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新たに登場した「成功した資本家たち」が貴族階級の生活を模範とするようになり、妻は「主婦」として使用人たちを家風に合うよう仕込み、監督するようになった。
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社会に「女性の居場所は家庭にある」という観念が流布されるようになる。
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多くの労働者の家庭は妻の労働により収入が必要だったが、女性が働くことが社会的に認められなくなってくると、割りの良い工場労働を諦め、行商や内職などで我慢するようになった。女性の経済的な弱体化の進行。
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禁欲的プロテスタントの「労働が絶対的な自己目的」「神のために労働し、富裕になるのは良いことだ」という思想は、次第に宗教の精神性は薄れ、利潤追求の競争、利己心と合理性のみによって政治や社会制度が突き動かされるようになる。結果として競争の過剰な激化。そこでより一層「家庭という小さな天国」を守る役割を女性が担わされた。
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第二次世界大戦後、高度成長により1人の稼ぎで家庭を賄えるようになり、より家父長システムが構築された。一方でテクノロジーの進化や、公民権運動、フェミニズムの運動により女性の解放の動きも進むようになる。
日本の場合
明治政府は、それまでは男女が協働する関係で生活のために運営していた組織である「家」を、「男性が偉い」という「家父長制」に、「家」から「家制度」にする。「天皇が最も偉い」ということとパラレル(並列的)。国家が権利や義務を男性にだけ与えて、男性だけを「一人前の国民」として認める。代表的なものは選挙権。
・戸主にはその家族を統括するための強い権限が認められ、家産をすべて管理した。しかし一方で、両親、祖父母などの存続を最優先とする扶養義務や祖先祭祀、家名の存続と発展のための務めが課されていた
・父のみが子どもの親権、家督相続権をもったが、妻にはこれらの権利はまったくなかった
・妻には厳格な貞操義務が課され、妻の不貞は離婚原因となったが、夫の不貞は誰かの妻と姦通し、その夫が告訴して姦通罪で処罰されたときのみ離婚原因になるなど、家制度は、男女不平等な法制度だった
*儒教的な「良妻賢母」教育と、イギリスのビクトリア期の「女性は家の中で天使であるべき」というイデオロギーの輸入。
【参照】「家父長制とジェンダー分業システムの起源と展開―『男性支配』体制はいかにつくられたのかー」 衛藤幹子(法学志林 第103巻 第2号)