5月16日に『アーティスト・クリエイターの心の相談室』出版記念イベントをDAYDREAM吉祥寺で開催しました。前半では本書に関連した内容の講義を行ったのですが、その要点をここにメモ的まとめておこうと思います。

昨今はアーティストサイドから自身のメンタルヘルスの問題についての発言がなされることが増えてきました。最近ではサカナクションの山口一郎さんがNHKスペシャルで赤裸々にご自身のうつ病に関して公表されていたのが印象的でした。

もともと音楽業界は従事者のメンタルに負荷をかけやすい側面があります。不規則な労働時間、しばしば生じる長時間労働、プライバシー侵害、感情労働によるストレス、急速な産業構造の変化など、マイナス要因を挙げていけばキリがないほどです。

そんな環境にありながら、議論されるのはマーケティングやシステムの話に偏りがちです。もちろんそれらはビジネスをやっていく上では大切なことではあります。しかし確実にうまくいく未来は予測することはできません。

しかし、社会や環境が変われば人のメンタルは「必ず影響を受ける」のです。確実に起きることがわかっているのであれば対策をすべきですし、どんなにマーケティングやシステムのことを考えても、クリエイティブな行為を行うのは「人」なのですから、まずは「人」のことを考えるべきでしょう。

日本を含めて世界では音楽産業に従事する人々のメンタルをサポートする動きが広がってきています。例えばアメリカではMUSICARES、Music Business Mental Health、イギリスではHelp Musicians、オーストラリアではWellbeing Helpline、米英・欧州でMusic Industry Therapist Collectiveなどが活動しています。日本ではソニーミュージックがB-sideという取り組みを始めました。

実際に、メンタルヘルスの対策を行っていくには、たくさんのことを考えていかなければなりませんが、基礎となる考え方として、僕は3つの提案をしました。それは「1 メンタルヘルスに関する誤解や偏見をなくすこと」「2 基礎知識を持つこと」「3 基礎知識を持ちながらも、あくまでも人は一人ひとり違う存在として捉えること。本当の意味でのダイバーシティを踏まえること」です。

1に関しては社会全般にいまだに多くの誤解があると思いますが、特に文化・芸能の分野では「クリエイティブには不安や苦しみがなければならない」という類の思い込みがあります。これらは実績ある多くのアーティストたちも否定しています。2は、言葉通り基礎知識を広く共有すべきということです。3は「ダイバーシティ(多様性)とは良いものでも悪いものでもなく、事実であると認識すること。事実を踏まえて最適解を探すこと」です。

そして、「障害」に関する「医学モデル」「社会モデル」「文化モデル」という考え方も紹介しました。それと関連して、「多数派・少数派」という視点を持つことの大切さも提案しました。

この度出版した『アーティスト・クリエイターの心の相談室』では以上のようなことについてもより詳しく書いています。リンク先には取り上げているテーマが紹介されていますので、興味のある項目がありましたら、ぜひご一読いただけると幸いです。

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