今年75歳になった僕の母は、1歳のときに父親(つまり僕の祖父)を戦争で失った。だから、母には父親の記憶がない。あるのはわずかに残された遺影と、誰かから話してきかされたエピソードだけだ。
母が70歳を過ぎたあるとき、僕の髪を見て、こんなことを話し始めた。
「あんたは、白髪が出ないねえ」
僕は40歳を過ぎてもほとんど白髪が生えていなかった。
「そうだね」と答えると
「死んだお父さんがそうだったかもしれないね」と言った。
僕の父も母も、40を過ぎた頃には白髪がけっこう出はじめていたので、もしかすると、死んだ祖父が白髪の出ない人だったのかもしれない、というわけだ。祖父は若くして亡くなったから、真相はわからない。栄養状態や、洗髪の習慣の違いなどもあるから、単純な比較もできないかもしれない。
しかし、70年という時を経ても、母の心の中には、埋めようのない喪失感があるのだろう。僕の髪を見て、記憶のない、そして、本当ならともに年齢を重ねるはずだった自分の父親のことを思っている。僕自身、娘が産まれ、一緒に暮らすようになって、自分が祖父の立場だったらと考えると、居たたまれない気持ちになる。
全てのことは、無数の人々がいろんな思いで積み重ねてきた蓄積によって成り立っている。そのことに対して、無神経であってはならないし、尊重しなければならない。
「父の日」をいろんな思いで迎えている人がいる。
投稿者: TESHIMA masahiko
1971年生。鹿児島県出身。出生地は大分県日田市。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。ミュージシャンとしてインディーズ、メジャーレーベルから数作品発表。また、音楽事務所にて音楽制作、マネジメント・スタッフを経て、専門学校ミューズ音楽院にて新人開発室、ミュージック・ビジネス専攻講師を担当。多数のアーティスト輩出。産業カウンセラー、音楽関連のライター、保育士資格保持者。「文化・芸能業界のこころのサポートセンターMebuki」所属カウンセラー。音楽・エンターテイメントのフィールドでのメンタルヘルスや発達障害などの特性に対する理解の重要さについて発信し続けている。
2016年、精神科医の本田秀夫氏との共著『なぜアーティストは生きづらいのか?~個性的すぎる才能の活かし方』を リットーミュージックから出版。アマゾンの予約の段階で音楽一般カテゴリで1位を獲得。
2016年、音楽プロデューサー・牧村憲一総合監修の「音学校」にて「ミュージシャンファーストマネジメント」ゼミを特任講師として担当。
各種講演・トークイベント、WEB連載を行なっている。
2019年「なぜアーティストは壊れやすいのか?~音楽業界から学ぶカウンセリング入門」上梓(SW)
2024年4月22日『アーティスト・クリエイターの心の相談室 創作活動の不安とつきあう』上梓(福村出版)
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